国際SFシンポジウム名古屋大会レセプション2013-08-11 21:36

 シンポジウムが終ってからやはり気が抜けたようになってしまって、ブログもすっかり滞ってしまった。

 これではいけない。まずは前回書こうと思って先送りになっていたレセプション(打ち上げ)のことを書いておこう。場所は本山の「スタンドバイミー」。長澤さんが片づけで忙しいので、会場の椙山女学園から皆を引率するのは自分の役目である。終了後も皆さん、話に花が咲いているのを無理やり終っていただき、会場に向かう。と、見知らぬ若者がそばにいたので、どうですか、レセプション行きませんかと誘うと、実は自分は木立嶺(こだちりょう)という作家であると名乗られてびっくり。第8回SF新人賞(徳間のやつ)佳作に入った作家ではないか。「あの『ケージュン』何とかの……」すぐには作品名が出てこなかったが、作家名はよく覚えている。新人賞・佳作をとった21人中、唯一単行本化されていない「戦域軍ケージュン部隊」の作家である。なぜその作家をよく覚えているかというと、実は自分が下読みで高評価をつけた作品の作者だからである。セリフ回しに気になるところが多かったが、話はよくできており、力は十分感じとれた。11回すべての下読みを担当したが、自分が読んで賞を得たのは彼と、『シンギュラリティ・コンクエスト』の山口優だけだったので、よく覚えていたのだ。聞けば、SFではないが、単行本も出すことができたとのこと。いや、よかった、よかった。と盛り上がりつつ、レセプション会場に到着。

 立って写真の準備などしていたら、何とバチガルピの真ん前しか席が空いていない。高校の同僚で英語の先生であるTさんとともにそこへ座る。いや、とにかくバチガルピはしゃべるしゃべる。すごい勢いである。もう少し英語力があれば……と悔やまれることしきり。フェイバリットSF作家を尋ねると、まずはギブスン。文体が最高、エクセレント。でも話は最低。『モナリザ・オーヴァードライヴ』が一番好きとのこと。次はル・グィン。『闇の左手』もいいけれど、『所有せざる人々』が最高。世界がリアルで政治的なところがいい。ミエヴィルはどうですか、と聞くといいけれど今一つという感じだったかな(これは自信なし)。同僚のTさんは『ねじまき少女』について突っ込んだ質問をしていたので、後で文章にまとめておいていただいた。どこかで発表できればと思う。
 名大SF研の片桐くんが、小林くんが百合小説を好きなので「フルーテッド・ガール」を読んだんですよと妙な紹介の仕方をしていたが、何とか通じていたようだった。

 ドゥニさんに最近のフランスSFは何が面白いのか聞く。風が吹いて世界が滅ぶというバラードのような話と、『悪の根っこ』という題名のノワールっぽい本が面白いと聞いたのだが、作家名を忘れてしまった。誰かフランスSFに詳しい人教えてください。

 中村融さんにいろいろ面白い話をうかがったのだが、これはオフレコ。それにしても、久しぶりにお会いしたのだが、全然パワーが衰えていないのにはびっくりでした。

 YOUCHANさんと巽さんに『現代作家ガイド ヴォネガット』に同時にサインをいただく。家宝にしたいと思います。

 その他いろいろ、あっという間に夜は更けてお開きとなったのだった。いやあ、濃い一日であった。写真は最後に撮った記念撮影です。みなさん、本当にお疲れ様&ありがとうございました!

ロバート・F・ヤング他『時に生きる種族』2013-08-12 21:51

 昨日ディックの新刊を求めて近所の本屋を回ったが、結局一軒も置いていなかった。代わりに見たのは平積みになった『たんぽぽ娘』(何と早くも三刷!)ばかり。『ビブリア』のおかげとは言え、ヤング人気はすごいね。

 さて、そのロバート・F・ヤングの中編「真鍮の都」を含んだ時間SFアンソロジーが本書である。全7編がすべて書籍初収録であるという編者のこだわりがまずはうれしい。個々のコメントは以下の通り。

ヤング「真鍮の都」
 二十二世紀から九世紀へシェヘラザードを誘拐しに来た主人公は、その帰りに機械操作を誤り、シェヘラザードともども十万年後の地球に飛ばされる。そこにあったのは摩訶不思議な真鍮の都であった……。異国情緒たっぷりに描かれるタイムトラベル・ラブロマンス。語り口やテンポもよく、万人が楽しめる作品となっている。

ムアコック「時を生きる種族」
 一度文明を失った者が時計を再発見するところもいいし、後半の無茶苦茶な物理時間論もいい。この大真面目な荒唐無稽さこそサイエンス・フィクションの醍醐味なのだ。

ディ・キャンプ「恐竜狩り」
 発表当時のディテールにこだわったリアルなタイムトラベルもの。現代の視点からすると古臭い点は多々あるが、それを言うのは野暮というもの。古典としての価値は十分ある。

シルヴァーバーグ「マグワンプ4」
 これもタイムループものの古典として評価すべき作品。ニュー・シルヴァーバーグ以前の彼がいかにアイディア一発勝負屋であったかがよくわかる。

ライバー「地獄堕ちの朝」
 ライバーが実は苦手なのである。これも一人の男が時空を超えた旅に出る、その出発点を描いているわけだが、どうもピンと来ない。ホラーとしては楽しめると思う。

クリンガーマン「緑のベルベットの外套を買った日」
 今回最も面白かったのがこれ。ヴィクトリア朝の女流日記を読むのが趣味の若き女性メイヴィスが、行きつけの古本屋で本当に19世紀から来た男性と出会う。寒さに震える彼に、メイヴィスは買ったばかりの緑の外套を渡すが……。タイムトラベルとラブロマンスを絡めた作品としては「たんぽぽ娘」よりずっと出来がいいのでは。緑の外套という小道具がよく効いている。全くの偶然だとは思うが、ウィリス『オール・クリア』でも、緑のコートは重要な役割を果たしている。シェイクスピアの引用もあるし、ひょっとしたらウィリスが影響を受けている可能性も……ないか。クリンガーマンの他の作品も読みたくなってしまった。

シャーレッド「努力」
 これが載った1977年5月号が初めて買ったSFマガジンなので、よく覚えている。はずだったのだが、久しぶりに再読すると、重要なところを随分忘れていた。一種の時空ビューアーを発明した男たちが映画(『アレキサンダー』『ローマ』『フランスをおおう炎』『アメリカに自由を』『兄弟と銃』……どれも観てみたい!)を撮るところはよく記憶に残っていたが、この機械を戦争撲滅の道具として大統領にアピールする終盤の展開は全く覚えていなかった。というか中学生にはよく理解できなかったのだろう。今読むと、本編の政治的な意図がよくわかる。時代を超えた名作である。旧訳には誤訳もあり(「費用をいとわず」→「犠牲をいとわず」など)、新訳の意義は十分あると思われる。

 これだけの作品が一冊で読めるのだから、買って損はない。ぜひぜひ一読をお薦めしたい。

チャイナ・ミエヴィル『クラーケン』2013-08-14 22:29

 『言語都市』が傑作だったので、期待して読み始めたのだが、ロンドン自然史博物館からダイオウイカが水槽ごと消え、博物館のキュレーターをしている男の友人レオンが、突然小包から現れた謎の二人組ゴスとサビーに襲われ、食われてしまう場面まで読んではたと気づいた。これ、『言語都市』とは全く系統が違うぞと(遅いか)。本書はロンドンの裏側に脈々と流れる裏の歴史を描いた一種のダーク・ファンタジイなのである。その意味では、ロンドンの地下での戦いを描いたデビュー作『キング・ラット』に似た作品だと言える。

 イカの行方を知っているはずだと誤解された主人公のキュレーター、ビリーはスキンヘッドの筋骨たくましい男デインと逃げることになり、これに「原理主義者およびセクト関連犯罪捜査班」の警部、巡査や、ロンドンに存在する数多くのセクト〈ロンドンマンサー〉〈ガンファーマーズ〉〈カオス・ナチス〉などなどが絡んで、ダイオウイカそっちのけで延々と続く追っかけが始まるわけだ。主にキャラクターで読ませる小説であり、アメコミを小説にしたような雰囲気がある。とりわけ、悪の君主タトゥーの設定(人間の背中にとり憑く刺青)は、非常に漫画的またはアニメ的だ。数多くの地口、カルトや宗教に関する蘊蓄(うんちく)、実在の建物や地名、ドラマネタ(本書で初めて『時空刑事1973ライフ・オン・マーズ』なんてのを知ったぞ)をぶち込んで語られる追っかけ、また追っかけ、アクションまたアクション。作者がとても楽しんで語っているのはわかるのだが、これはちょっと詰め込まれたネタが過剰過ぎるのではなかろうか。出てくる音楽もイット・バイツにゲイリー・グリッター、ソルトンペパーにカニエ・ウエスト、エイミー・ワインハウスでは本当に無茶苦茶で(それがねらいだとしても)、単に出してみましたといった感じにしか見えない。スード・エコーの「ファンキー・タウン」とスペシャルズの「ゴースト・タウン」はロンドンを象徴してるととれなくもないのでいいなとは思ったが。ともかく、全体的にもうちょっと刈り込んで、コンパクトにまとめた方がよかったのではという気がした。

 最後に音楽の訳語だが、プリンスの『キス』は『キッス』の方が、Run-D.M.C.はRUN-DMCまたはRUN DMCの方が馴染んでいると思う。