ロバート・F・ヤング他『時に生きる種族』2013-08-12 21:51

 昨日ディックの新刊を求めて近所の本屋を回ったが、結局一軒も置いていなかった。代わりに見たのは平積みになった『たんぽぽ娘』(何と早くも三刷!)ばかり。『ビブリア』のおかげとは言え、ヤング人気はすごいね。

 さて、そのロバート・F・ヤングの中編「真鍮の都」を含んだ時間SFアンソロジーが本書である。全7編がすべて書籍初収録であるという編者のこだわりがまずはうれしい。個々のコメントは以下の通り。

ヤング「真鍮の都」
 二十二世紀から九世紀へシェヘラザードを誘拐しに来た主人公は、その帰りに機械操作を誤り、シェヘラザードともども十万年後の地球に飛ばされる。そこにあったのは摩訶不思議な真鍮の都であった……。異国情緒たっぷりに描かれるタイムトラベル・ラブロマンス。語り口やテンポもよく、万人が楽しめる作品となっている。

ムアコック「時を生きる種族」
 一度文明を失った者が時計を再発見するところもいいし、後半の無茶苦茶な物理時間論もいい。この大真面目な荒唐無稽さこそサイエンス・フィクションの醍醐味なのだ。

ディ・キャンプ「恐竜狩り」
 発表当時のディテールにこだわったリアルなタイムトラベルもの。現代の視点からすると古臭い点は多々あるが、それを言うのは野暮というもの。古典としての価値は十分ある。

シルヴァーバーグ「マグワンプ4」
 これもタイムループものの古典として評価すべき作品。ニュー・シルヴァーバーグ以前の彼がいかにアイディア一発勝負屋であったかがよくわかる。

ライバー「地獄堕ちの朝」
 ライバーが実は苦手なのである。これも一人の男が時空を超えた旅に出る、その出発点を描いているわけだが、どうもピンと来ない。ホラーとしては楽しめると思う。

クリンガーマン「緑のベルベットの外套を買った日」
 今回最も面白かったのがこれ。ヴィクトリア朝の女流日記を読むのが趣味の若き女性メイヴィスが、行きつけの古本屋で本当に19世紀から来た男性と出会う。寒さに震える彼に、メイヴィスは買ったばかりの緑の外套を渡すが……。タイムトラベルとラブロマンスを絡めた作品としては「たんぽぽ娘」よりずっと出来がいいのでは。緑の外套という小道具がよく効いている。全くの偶然だとは思うが、ウィリス『オール・クリア』でも、緑のコートは重要な役割を果たしている。シェイクスピアの引用もあるし、ひょっとしたらウィリスが影響を受けている可能性も……ないか。クリンガーマンの他の作品も読みたくなってしまった。

シャーレッド「努力」
 これが載った1977年5月号が初めて買ったSFマガジンなので、よく覚えている。はずだったのだが、久しぶりに再読すると、重要なところを随分忘れていた。一種の時空ビューアーを発明した男たちが映画(『アレキサンダー』『ローマ』『フランスをおおう炎』『アメリカに自由を』『兄弟と銃』……どれも観てみたい!)を撮るところはよく記憶に残っていたが、この機械を戦争撲滅の道具として大統領にアピールする終盤の展開は全く覚えていなかった。というか中学生にはよく理解できなかったのだろう。今読むと、本編の政治的な意図がよくわかる。時代を超えた名作である。旧訳には誤訳もあり(「費用をいとわず」→「犠牲をいとわず」など)、新訳の意義は十分あると思われる。

 これだけの作品が一冊で読めるのだから、買って損はない。ぜひぜひ一読をお薦めしたい。

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