ケン・リュウ『蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼』 ― 2016-09-19 14:44

待望の幻想武侠小説シリーズの第二巻。と言っても原書の一冊を翻訳で二分割したものだから、正しくは第一巻の後半だ。前巻から引き続き、作者は紀元前三世紀における「項羽と劉邦」の戦いを異世界に移し替えて辿りつつも、少しずつ細部をズラしながら物語を進めていく。このズラし方が実に巧妙で、なおかつ、シルクなど生物由来の素材を使ったテクノロジーを織り込んだ小道具が異世界の雰囲気を盛り上げる(作者は本書を「シルク・パンク」と呼んでいる)。元の物語の魅力を生かしながら、立派にケン・リュウのオリジナル作品になっているところが素晴らしい。たとえば(ネタバレにならないよう名前は伏せるが)、ある主要登場人物の性別を作者は変えており、これが結末に向けて絶大な効果を発揮しているのだ。
後半の読みどころは三つある。まずは、先にザナ帝国の首都パンに辿りついて好き放題にやっていたクニ・ガルが、後からやって来たマタ・ジンドゥの怒りに触れて謝罪する場面。マタが来るのを待っていたのだという真っ赤な嘘を、巧みな弁舌で周囲に信じ込ませるクニ。一人嘘を見抜いた参謀ペリンの命のもと、剣の舞の最中にクニを殺そうとするロウ・ミノウセ。それを聞いたミュン・サクリがクニを守るために突っ込んでくる。「鴻門の会」「剣の舞」として知られる名場面だ。ミュン・サクリの勇猛果敢さに、しびれるねえ。
次は、辺境の地へ追いやられたクニが反撃を開始する場面。ここで活躍するのが、クニの第二夫人となる煙使いのリサナと、男勝りの女兵士ギン・マゾウティだ。特にマゾウティは、その壮絶な生い立ちにより鍛えられた圧倒的な戦闘能力と、冷徹かつ的確な判断力で大いに活躍する。あっと驚く新兵器の登場もあり、ここはケン・リュウのオリジナリティが大いに発揮されているところ。
そして、最後に、言わずと知れた「四面楚歌」である。愛するミラとともに敵に囲まれ苦悩するマタ・ジンドゥ。その周囲で故郷コウクルの歌声が響く。ここは実際に読んで、じっくりと味わっていただきたい。
以上、とにかく登場人物が生き生きしている。動いている。物語が力強く、台詞に含蓄がある。ジャンルを超えた面白さがあることは間違いない。クニ・ガルの子供たちが主役となる続編の翻訳が今から楽しみだ。そのためには、本書ができるだけ多くの人に読まれる必要がある。未読の方に、ぜひともご一読をお勧めする次第である。
後半の読みどころは三つある。まずは、先にザナ帝国の首都パンに辿りついて好き放題にやっていたクニ・ガルが、後からやって来たマタ・ジンドゥの怒りに触れて謝罪する場面。マタが来るのを待っていたのだという真っ赤な嘘を、巧みな弁舌で周囲に信じ込ませるクニ。一人嘘を見抜いた参謀ペリンの命のもと、剣の舞の最中にクニを殺そうとするロウ・ミノウセ。それを聞いたミュン・サクリがクニを守るために突っ込んでくる。「鴻門の会」「剣の舞」として知られる名場面だ。ミュン・サクリの勇猛果敢さに、しびれるねえ。
次は、辺境の地へ追いやられたクニが反撃を開始する場面。ここで活躍するのが、クニの第二夫人となる煙使いのリサナと、男勝りの女兵士ギン・マゾウティだ。特にマゾウティは、その壮絶な生い立ちにより鍛えられた圧倒的な戦闘能力と、冷徹かつ的確な判断力で大いに活躍する。あっと驚く新兵器の登場もあり、ここはケン・リュウのオリジナリティが大いに発揮されているところ。
そして、最後に、言わずと知れた「四面楚歌」である。愛するミラとともに敵に囲まれ苦悩するマタ・ジンドゥ。その周囲で故郷コウクルの歌声が響く。ここは実際に読んで、じっくりと味わっていただきたい。
以上、とにかく登場人物が生き生きしている。動いている。物語が力強く、台詞に含蓄がある。ジャンルを超えた面白さがあることは間違いない。クニ・ガルの子供たちが主役となる続編の翻訳が今から楽しみだ。そのためには、本書ができるだけ多くの人に読まれる必要がある。未読の方に、ぜひともご一読をお勧めする次第である。
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