創元SF50年の歩み(その2) ― 2012-10-09 18:04

タイトルを「創元推理文庫SF50年の歩み」としてしまってはたと気づいたが、創元推理文庫SFは1991年までで、後は創元SF文庫になるので、すべて含めて創元SFという呼称にしておく。でも、これでは「文庫」がなくなってしまうなあ。何か良い呼び方があったら教えてください。では昨日の続きから。
え、ドラキュラがSF? と今の読者なら不思議に思うはずだ。先述の厚木淳インタビューでは「最初のころのSFマークは空想科学小説と怪奇小説を一緒にした部門だったのね。僕はね、SFマークを作るとき、創元SF文庫として名前も変えたほうがいいと提案したの。そしたら、営業部から猛烈に反対されたんだよ。書店でもうひとつ棚をとるのが大変だって理由で。」と語られている。第六弾のヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険』(1964年2月5日刊)には何も記載がないが、第七弾のウエルズ『透明人間』(世界大ロマン全集からの再録/1964年2月28日刊)の裏表紙に付されたマークの分類表には確かにSFの下に「空想科学小説/怪奇小説」と記されている。この方針のもと、既にスリラー・サスペンス部門から刊行されていたドイルの怪奇冒険小説『クルンバーの謎』(世界大ロマン全集からの再録/1959年10月23日刊)がSF部門に組み込まれたのが1964年7月31日刊の五版から(ちなみに、初期の巻末目録に『クルンバーの謎』が本格部門から刊行されたように見える記載があるが、これは便宜上同一作家は同一箇所にまとめられていたためであり、初版はあくまでもスリラー部門からの刊行である)。1964年夏の段階で、刊行されていた創元SFマーク計8冊のうち半数に当たる4冊が世界大ロマン全集からの再録であるから、なるほど厚木氏の言葉通り、SFと怪奇小説が混在している。SFというマークは狭義のミステリに収まらない作品を収録するための、極めて混沌たる存在であったということになるだろう。
しかし、その混沌もそれほど長くは続かなかった。1964年の夏以後、ハインライン、クラーク、アシモフ、ブラッドベリといった当時は活きのいい作家たちを続々と刊行し始めた創元SFマークは、1965年2月から、SFの説明を「空想科学小説/怪奇小説」から「宇宙科学小説/怪奇小説」へと変更。同年5月刊のベスター『分解された男』からは、他ジャンルと共通であった3ケタの通巻ナンバーを改め、独自に7から始まる3ケタの分類番号を採用する。この時点で、SF部門から『クルンバーの謎』と『吸血鬼ドラキュラ』は姿を消し、スリラー・サスペンス部門へ移行(ただし『クルンバーの謎』は目録上の移行のみで現物は存在しない……はず)。SFの説明からも「怪奇小説」は消えた。SFマークは創刊から2年近くを経て、ようやく単独で「宇宙科学小説部門」となったのだ。(つづく)
え、ドラキュラがSF? と今の読者なら不思議に思うはずだ。先述の厚木淳インタビューでは「最初のころのSFマークは空想科学小説と怪奇小説を一緒にした部門だったのね。僕はね、SFマークを作るとき、創元SF文庫として名前も変えたほうがいいと提案したの。そしたら、営業部から猛烈に反対されたんだよ。書店でもうひとつ棚をとるのが大変だって理由で。」と語られている。第六弾のヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険』(1964年2月5日刊)には何も記載がないが、第七弾のウエルズ『透明人間』(世界大ロマン全集からの再録/1964年2月28日刊)の裏表紙に付されたマークの分類表には確かにSFの下に「空想科学小説/怪奇小説」と記されている。この方針のもと、既にスリラー・サスペンス部門から刊行されていたドイルの怪奇冒険小説『クルンバーの謎』(世界大ロマン全集からの再録/1959年10月23日刊)がSF部門に組み込まれたのが1964年7月31日刊の五版から(ちなみに、初期の巻末目録に『クルンバーの謎』が本格部門から刊行されたように見える記載があるが、これは便宜上同一作家は同一箇所にまとめられていたためであり、初版はあくまでもスリラー部門からの刊行である)。1964年夏の段階で、刊行されていた創元SFマーク計8冊のうち半数に当たる4冊が世界大ロマン全集からの再録であるから、なるほど厚木氏の言葉通り、SFと怪奇小説が混在している。SFというマークは狭義のミステリに収まらない作品を収録するための、極めて混沌たる存在であったということになるだろう。
しかし、その混沌もそれほど長くは続かなかった。1964年の夏以後、ハインライン、クラーク、アシモフ、ブラッドベリといった当時は活きのいい作家たちを続々と刊行し始めた創元SFマークは、1965年2月から、SFの説明を「空想科学小説/怪奇小説」から「宇宙科学小説/怪奇小説」へと変更。同年5月刊のベスター『分解された男』からは、他ジャンルと共通であった3ケタの通巻ナンバーを改め、独自に7から始まる3ケタの分類番号を採用する。この時点で、SF部門から『クルンバーの謎』と『吸血鬼ドラキュラ』は姿を消し、スリラー・サスペンス部門へ移行(ただし『クルンバーの謎』は目録上の移行のみで現物は存在しない……はず)。SFの説明からも「怪奇小説」は消えた。SFマークは創刊から2年近くを経て、ようやく単独で「宇宙科学小説部門」となったのだ。(つづく)
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