『パラドクス・ホテル』ロブ・ハート(2025年3月/創元SF文庫) ― 2025-04-22 21:15

タイムトラベルが実現し、好きな時代へ自由に旅行ができるようになった近未来。アインシュタイン・インターセンチュリー時空港に隣接したパラドクス・ホテルでは、時空港を民営化しようという計画が進行していた。時間旅行は費用がかかり、政府は赤字で運営している。大富豪を集めて、その中の誰かに事業をまるごと買ってもらおうというわけだ。不動産王、サウジアラビア皇太子、IT投資家、複数企業のCEOが集まり、ホテルでサミットが開かれようとするとき、奇妙な出来事が連続して起きる。孵化したばかりの恐竜が三頭、ホテル内を走り回る。ロビーの大時計が不連続な時間を示す。
主人公の警備主任ジャン・コールは、自身が時間離脱症を患っており、突然過去や未来の風景を垣間見る。亡くなった恋人メーナがホテル内に現れ、ホテルの客室でのどを切り裂かれた男の死体を見る。そんな中で、ホテル内での事件が起きたため、混乱は増すばかり。果たして殺人事件の真相は明らかになるのか、そしてサミットの行方は……。
実に魅力的な舞台設定と言うべきで、時空港からは、古代エジプト、ゲティスバーグの戦い、三畳紀、ルネサンスなど世界史、地球史のエポックメイキングとなる様々な時代行きの旅客機が出ている。ジャン・コールはもともと時間犯罪取締局で働いていたこともあり、少しはタイムトラベルの状況が回想として描かれているが、本書のストーリイはあくまでもホテル内で起きるさまざまな事件を解決することが主となっており、時間旅行が脇に置いておかれるのが、少し物足りない。しかし、それを補って余りあるのが、ホテル内での恐竜をめぐる騒動、ホテルの経営をめぐる権謀術数、時空が乱れるトラブルの解決などのいくつもの重層的に重なる物語である。主人公の時間離脱症のために、時系列が複雑に入り乱れてシーンが現れ、かなり複雑な構成となっているが、作者の手綱さばきが巧く、決して読みにくくはない。主人公の相棒であるAIドローンのルビーとのユーモラスなやり取りもあって、楽しく読み進めることができる。そして、何より主人公コールの恋人であったメーナが、コールの時間離脱症によって繰り返し自身の目の前に現れては消える、その辛さが切実に読者に迫ってくる。本書は、表面的には強靭な個性をもちながら、内面では自己嫌悪にまみれ生きづらさを抱えた一人の女性の心が解きほぐされ、新たな居場所を見つけ出していく過程を丁寧に描いた心理小説でもあるのだ。タイムトラベルものの衣をまとった癒しの物語。本書の核はここにあるのではないかと思う。
主人公の警備主任ジャン・コールは、自身が時間離脱症を患っており、突然過去や未来の風景を垣間見る。亡くなった恋人メーナがホテル内に現れ、ホテルの客室でのどを切り裂かれた男の死体を見る。そんな中で、ホテル内での事件が起きたため、混乱は増すばかり。果たして殺人事件の真相は明らかになるのか、そしてサミットの行方は……。
実に魅力的な舞台設定と言うべきで、時空港からは、古代エジプト、ゲティスバーグの戦い、三畳紀、ルネサンスなど世界史、地球史のエポックメイキングとなる様々な時代行きの旅客機が出ている。ジャン・コールはもともと時間犯罪取締局で働いていたこともあり、少しはタイムトラベルの状況が回想として描かれているが、本書のストーリイはあくまでもホテル内で起きるさまざまな事件を解決することが主となっており、時間旅行が脇に置いておかれるのが、少し物足りない。しかし、それを補って余りあるのが、ホテル内での恐竜をめぐる騒動、ホテルの経営をめぐる権謀術数、時空が乱れるトラブルの解決などのいくつもの重層的に重なる物語である。主人公の時間離脱症のために、時系列が複雑に入り乱れてシーンが現れ、かなり複雑な構成となっているが、作者の手綱さばきが巧く、決して読みにくくはない。主人公の相棒であるAIドローンのルビーとのユーモラスなやり取りもあって、楽しく読み進めることができる。そして、何より主人公コールの恋人であったメーナが、コールの時間離脱症によって繰り返し自身の目の前に現れては消える、その辛さが切実に読者に迫ってくる。本書は、表面的には強靭な個性をもちながら、内面では自己嫌悪にまみれ生きづらさを抱えた一人の女性の心が解きほぐされ、新たな居場所を見つけ出していく過程を丁寧に描いた心理小説でもあるのだ。タイムトラベルものの衣をまとった癒しの物語。本書の核はここにあるのではないかと思う。
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