チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』2012-08-18 12:58

 『SFが読みたい!』年間ベストに向けて、読み残した本を夏休みの間に読んでおかなければ、ということで、まずは昨年12月刊の『都市と都市』から読み始めた。

 一人の女子大学生が残虐な手口で殺害され、その犯人をボルルという警部補が追うというストーリーラインは完全にミステリのもの。都市がニューヨークかロンドンであれば、まあ並の犯罪小説になっていただろう。しかし、本書がヒューゴー、ローカス、クラークと5つもの賞を受賞したのは、ヨーロッパのどこかにあるという架空のモザイク都市の設定があまりにも見事であり、説得力に溢れていたからだ。ベジェルとウル・コーマという言語も文化も異なる二つの都市が同じ空間に存在するという設定は、並のSF作家ならば、パラレルワールドで処理してしまうところだが、ミエヴィルのユニークさは、この設定を、互いに相手を「見ない」「聞かない」という思い切りアナログかつシンプルな方法で処理してしまった強引さにある。そこに存在するのに見えていないというのは、心理学的に説明しうることであり得ない話ではない。しかし、数万人から数百万人が暮らす都市でそれを行うことができるのか。ミエヴィルは、携帯、iPod、ネットなど現代の日常生活にある小道具や、いかにもヨーロッパ風な都市の佇まいをリアルに描写することによって、別種の国民が同時に暮らす都市というあり得ない世界を見事に存在せしめている。中盤もたつくのがやや残念ではあるが、SFとは、ストーリーやキャラクターよりも、語り口やものの見方そのものに重きを置いた小説であるということをよく体現している佳作である。

いつもの誤字探し。P.300「あまにも」→「あまりにも」

 ここまでで、暫定的な2012海外SFベストを作ると、

1 『サイバラバード・デイズ』 イアン・マクドナルド
2 『第六ポンプ』 パオロ・バチガルピ
3 『都市と都市』 チャイナ・ミエヴィル
4 『連環宇宙』 R・C・ウィルスン

となる。すごく当たり前だけど、こんなものでしょう。これから読むのが『ボーンシェイカー』『ブラックアウト』。バチガルピの『シップ・ブレイカー』も楽しみ。今年は国書刊行会と河出書房が出ていないこともあって、久しぶりに早川の年になるのかな。

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