米澤穂信『折れた竜骨』2012-01-09 23:13

 このミス昨年ベスト2。アンビ新年会でも話題になっていたので、早速読んでみた。十二世紀末のイングランド、ブリテン島の東にある小さな架空の島、ソロン島に舞台をとり、魔術師や魔法が存在する世界における殺人事件を取り扱った異色ミステリである。SFファン、ファンタジイ・ファンから見ると、ランドル・ギャレット『魔術師が多すぎる』やピアズ・アンソニイの《ザンス》シリーズなどでロジカルに魔法が存在するという設定は馴染み深いものがあるが、国内ミステリにおいては随分と思い切った設定と言えるだろう。

 北海交易を一手に制したエイルウィン家の当主、ローレント・エイルウィンののところへ傭兵が集まってくる場面から物語は始まる。どうやら、彼は近々恐るべき敵であるデーン人の襲撃があると考えているらしい。ブレーメンの騎士、ウエールズの弓手、マジャル人の女性、サラセン人の魔術師など、様々な者が集められ、当主との面会を果たすが、その晩彼は殺されてしまうのだ。一体誰が、何のために……? 事件を追うのは聖アンブロジウス病院兄弟団の騎士ファルクとその従者ニコラ。ローレントの娘アミーナが語り手の役を担う。犯人は魔術を使って〈走狗〉と呼ばれる身代わりを使いローレントを殺させたらしい。〈走狗〉はその後自分のしたことを忘れてしまうので、下手人捜しは至難の業である。しかし、ファルクは決然と言う。「たとえ誰かが魔術師であったとしても、また誰がどのような魔術を用いたとしても、それでも〈走狗〉は彼である、または彼ではない、という理由を見つけ出すのだ」と。ここに本書が本格ミステリとして成立している根拠がある。本書においては、魔法と言っても、厳然として作られたルールに縛られており、それに則って論理的に考えていけば、事件の解決に至るのだ。決してルールからはみ出したり、ルール自体を疑うこともなく、作品は見事に完結する。面白いことは面白いのだが、まあ、よくできたパズルみたいなもので、それ以上の深みがあるわけではない。語り手であるアミーナを始め、探偵役のファルクとニコラ、どのキャラクターも平板で、ちょっと物足りない気がする。知的遊戯としては十分及第点なのだが……。

 このミス上位にこのような作品が来るというのは少し驚きではある。綾辻行人ら新本格の登場のような衝撃はないけれど、こうして世代交代というのはゆるやかに進んでいくのかもしれない。

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