『ミッキー7 反物質ブルース』エドワード・アシュトン(2025年3月/ハヤカワ文庫SF) ― 2025-04-13 13:47

ポン・ジュノ監督により映画化された『ミッキー7』(2023年1月/ハヤカワ文庫SF)の続編である。舞台は、宇宙移民のための宇宙船外活動や惑星開拓において「エクスペンダブル(使い捨て人間)」と呼ばれるクローン人間が危険な任務を担う未来。エクスペンダブルに志願し、惑星ニヴルヘイム開発の任務についた主人公ミッキー・バーンズは、何度も悲惨な死に方をして、その度に再生され、生前にアップロードしておいた記憶を上書きされては、また任務につく。六度目に再生された個体がミッキー7というわけだ。
ニヴルヘイムの原住生物(巨大ムカデのような生き物)に殺されたと思われていたミッキー7が実は生きていて、コロニーに戻るとミッキー8が既に再生されていた。見つかれば処分されてしまうミッキー7は、ミッキー8と協力して秘かに共同生活を送るが、やがてばれてしまい……という物語が、前作ではテンポよくコミカルに描かれていた。本書は、その直接の続編となるので、できれば前作を読んでからの方が楽しめるだろう。タイトルにあるように、前作の結末で重要な役割を果たした反物質爆弾が鍵となり、その探索行が本書のメイン・ストーリイとなる。
エクスペンダブルを辞めて二年が経過し、ミッキーは平穏な生活を送っていた。しかし、コロニーの全エネルギーを作り出している反物質反応炉が故障し、反物質燃料の9割がダメになる。残りの燃料ではニヴルヘイムの厳しい冬を越すことができない。ミッキーは司令官に命じられ、反物質爆弾を取り戻すことになった。早速隠し場所に向かうが、そこに爆弾はなかった。ムカデたちとコンタクトを果たしたミッキーは、爆弾がムカデたちの敵に貢物として渡されたことを知る。果たしてミッキーは爆弾を取り戻すことができるのか……。
前作の最後からムカデたちとのコンタクトがとれるようになり、彼らの知性のあり方がわかってきた。ムカデたちは知性を共有する一種の集合体であり、〈最高〉と呼ばれる存在と〈補助者〉と呼ばれる存在に分かれている。〈最高〉さえ生きていればそれでよく〈補助者〉は殺されても構わない。従って、相手に対しても〈補助者〉とみなせば、簡単に殺してしまう。ミッキーは自分を〈最高〉だと伝えて殺害を免れたのだ。今回は、人間そっくりに話すムカデが現れ、コンタクトがよりスムースに進む。人間の通信を傍受して言葉を覚えたため、ミッキーの友人ベルトそっくりに話すという特色を備えており、異生命体とのコンタクトがよりユーモラスなものになっている。この特色は、本シリーズの長所でもあり、短所でもある。アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』にも顕著な点だが、異生命体とのコンタクトが容易に、人間に理解可能なものとして進んでいくことは、読みやすさとわかりやすさを読者に提供する一方で、そんなことが本当に可能なのかというありえなさを逆に喚起し、作品のリアリティが失われる要因ともなる。娯楽作のレベルで読めればそれでいいという立場からは問題にならないことだが、レムのように異生命体とのコンタクトをシリアスに捉える立場から見ると、安直かつ不徹底ということになるだろう。
ともあれ、本書の後半では、人間とムカデたちが協力して、相手の〈補助者〉である巨大なクモたちと戦う。クモたちの背後には、ムカデたちとはまた別種の生命体が潜んでいるのだが、その正体は読んでのお楽しみというところだ。爆弾の行方とコロニーの運命にも見事に決着がつき、物語は大団円を迎える。エンターテインメントとしては申し分のない出来で、読んで損なしの面白さ。ただ、もう少し深みがあれば……というのはないものねだりになるのだろう。
ニヴルヘイムの原住生物(巨大ムカデのような生き物)に殺されたと思われていたミッキー7が実は生きていて、コロニーに戻るとミッキー8が既に再生されていた。見つかれば処分されてしまうミッキー7は、ミッキー8と協力して秘かに共同生活を送るが、やがてばれてしまい……という物語が、前作ではテンポよくコミカルに描かれていた。本書は、その直接の続編となるので、できれば前作を読んでからの方が楽しめるだろう。タイトルにあるように、前作の結末で重要な役割を果たした反物質爆弾が鍵となり、その探索行が本書のメイン・ストーリイとなる。
エクスペンダブルを辞めて二年が経過し、ミッキーは平穏な生活を送っていた。しかし、コロニーの全エネルギーを作り出している反物質反応炉が故障し、反物質燃料の9割がダメになる。残りの燃料ではニヴルヘイムの厳しい冬を越すことができない。ミッキーは司令官に命じられ、反物質爆弾を取り戻すことになった。早速隠し場所に向かうが、そこに爆弾はなかった。ムカデたちとコンタクトを果たしたミッキーは、爆弾がムカデたちの敵に貢物として渡されたことを知る。果たしてミッキーは爆弾を取り戻すことができるのか……。
前作の最後からムカデたちとのコンタクトがとれるようになり、彼らの知性のあり方がわかってきた。ムカデたちは知性を共有する一種の集合体であり、〈最高〉と呼ばれる存在と〈補助者〉と呼ばれる存在に分かれている。〈最高〉さえ生きていればそれでよく〈補助者〉は殺されても構わない。従って、相手に対しても〈補助者〉とみなせば、簡単に殺してしまう。ミッキーは自分を〈最高〉だと伝えて殺害を免れたのだ。今回は、人間そっくりに話すムカデが現れ、コンタクトがよりスムースに進む。人間の通信を傍受して言葉を覚えたため、ミッキーの友人ベルトそっくりに話すという特色を備えており、異生命体とのコンタクトがよりユーモラスなものになっている。この特色は、本シリーズの長所でもあり、短所でもある。アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』にも顕著な点だが、異生命体とのコンタクトが容易に、人間に理解可能なものとして進んでいくことは、読みやすさとわかりやすさを読者に提供する一方で、そんなことが本当に可能なのかというありえなさを逆に喚起し、作品のリアリティが失われる要因ともなる。娯楽作のレベルで読めればそれでいいという立場からは問題にならないことだが、レムのように異生命体とのコンタクトをシリアスに捉える立場から見ると、安直かつ不徹底ということになるだろう。
ともあれ、本書の後半では、人間とムカデたちが協力して、相手の〈補助者〉である巨大なクモたちと戦う。クモたちの背後には、ムカデたちとはまた別種の生命体が潜んでいるのだが、その正体は読んでのお楽しみというところだ。爆弾の行方とコロニーの運命にも見事に決着がつき、物語は大団円を迎える。エンターテインメントとしては申し分のない出来で、読んで損なしの面白さ。ただ、もう少し深みがあれば……というのはないものねだりになるのだろう。
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