刈谷市美術館「加藤久仁生展」など2012-05-20 23:08

 妻とともに美術館のはしごをした。刈谷市美術館の「加藤久仁生展」と高浜市かわら美術館の「アート・ブリュット・ジャポネ展」の二つである。

「加藤久仁夫展」 http://www.city.kariya.lg.jp/museum/exhibition_2012_katokunio.html

「アート・ブリュット・ジャポネ展」 http://www.takahama-kawara-museum.com/exhibition/detail.php?id=292

 加藤久仁生は「つみきのいえ」でアカデミー短編アニメーション賞を受賞したアニメ作家。初の個展となる今回は、イラストを描きためた若い頃からのスケッチブックを始め、「つみきのいえ」の動画および絵コンテ全カットなどの貴重な資料を展示している。今回の展示のために特別に作られた、「積み木」を模した展示箱(展示板?)が面白い。「つみきのいえ」を観た人は皆、その緻密で温かみのある絵に心惹かれるはずだ。自分はあの絵は、一枚一枚色鉛筆で塗ったのだとばかり思っていた。無論それはそれで大変なのだが、実はそうではなく、背景と登場人物の輪郭と登場人物の影を別々に黒鉛筆一本で作画し、それを合成し、後から彩色していたのだと知り驚愕。想像していた以上に手間暇かけた作品なのであった。その場で上映もしているので、大画面でじっくりと鑑賞する。裏の苦労を知ってから観ると、感動もひとしおである。その後の作品「情景」も上映していたが、こちらは作家性を前面に打ち出しており、山村浩二の世界に近づいてきている。うーん、この人はもう少しわかりやすい作品の方が画風に合っていると思うんだけどなあ。

 絵本「つみきのいえ」の原画も展示されていた。当然同じストーリーだと思っていたら、これが微妙にずれていて面白かった。映画で印象に残るワイングラスのエピソードは絵本では全く出てこない。海に潜るきっかけも、映画では「パイプ」、絵本では「金槌」を落としたことになっている。絵本では、その場面の必然性が描けないためらしいが、逆に言えば、これは映画には必然性のない場面、無駄なシーンが一切ないということだ。こうした作者のこだわりが「つみきのいえ」の感動につながっているのだろう。

 刈谷から少し足を伸ばして高浜市へ。「アート・ブリュット」とは、生(き)の芸術ということで、正規の芸術教育を受けていない人(例えば知的障がい者など)によるアートを指すようだ。紙で作った人形や電車、飛行機といった素朴なものから、結構本格的な作品まで、素人とは言っても、創作のエネルギー溢れる力作が多数展示されており、すっかり圧倒されてしまった。特に強烈なインパクトを受けたのは魲(すずき)万里絵という分裂症患者の絵だ。これはすごい。乳房と性器とはさみに対するオブセッションを画面にたたきつけ、これでもかと言わんばかりの点描と反復された文様で描き出す。夢野久作のカバーにぴったりと言えばわかってもらえるだろうか。いやはや、すごい画家がいたものだ。既に個展も開いているようなので、注目されてはいるのだろう。ちょっと毒が強いので万人にはお薦めしないが、興味のある人は下記をのぞいてみて。

魲万里絵展 http://www.no-ma.jp/exhibition/dt_46.html