『ベムagain』岡田正也追悼ファンジン2012-07-01 12:29

 6月は何かと忙しく、ついに一度も更新できなかった。コレデハイケナイ。7月はなるべく多く更新するつもりなので、よろしく。

 さて、先日久しぶりに名古屋市千種にある「ちくさ正文館書店」に寄ったらSFコーナーに『ベムagain』という題名の妙に古めかしい表紙の本が置いてある。昔の同人誌風でもあるので、手にとってよく見ると、これは何と、『ベム』という同人誌で知られた、名古屋SFファンダムのBNF(死語。ビッグネームファンの略)岡田正也さんのエッセイ傑作選ではないか。岡田さんが昨年亡くなったということは高井信さんのブログで読んで知っていた。

http://short-short.blog.so-net.ne.jp/archive/201105-1

 どうやらこの本は高井さんが(おそらく)自費で出版したものらしい。内容は『宇宙塵』や『ミュータンツ』や『ベム』に載せたものの再録であり、スペオペや秘境冒険ものをこよなく愛した岡田さんの嗜好がよく表われたものとなっている。

 同じSFといっても、自分の嗜好とは異なり、また、自分がファン活動を始めた70年代後期にはもはや岡田さんの活動時期は終わっていたため、一度も姿をお見かけしたことはなかったが、このような形で氏の業績の一端に触れることができたのは、うれしい驚きであった。

 まだ正文館には置いてあると思うので、欲しい人は行ってみるか、遠方の方は申し出ていただければ自分が買いに行きますよ。頒価500円でした。

http://short-short.blog.so-net.ne.jp/archive/201206-1

 上記を見ると東京では北原尚彦さんが売ってくれるようです。

全校生徒にブラッドベリを伝える2012-07-03 23:20

 明日の朝礼で図書館主任として講話をします。いい機会なので、ブラッドベリ『華氏451度』を紹介し、皆さん本を読みましょうという話をしようと思っています。1,000人の前で話すのでちょっと緊張しますが、まあ、若者にSFの面白さを伝えていくことが大事だと思っているので、がんばります。

 今の若者の7割は一年間に一冊も本を読まないという統計がありますが、日々生徒に接していて実際そんなものだと思います。本校(レベルは中程度以上の進学校です)でも4月から一冊も借りていない生徒が8割程度います。もちろん図書館で借りなくても家で読んでくれていればいいのですが。

 ひさびさに『華氏451度』を読み返すと、大型テレビを見てばかりの人やイヤホンで音楽を聴いてばかりの人が登場するだけでなく、学校の授業はすべてフィルムで行われているという記述があって驚きました。生徒によれば、今、塾ではビデオの授業が多く、自分で止めたり早送りしたりして受けているとのこと。塾の先生はその上で質問を受けたりしているのだそうです。うーん、ますます『華氏451度』の世界に近づいているなあ。

三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3』2012-07-05 03:35

 全校生徒にブラッドベリを伝えるプロジェクトは無事終了。ただし、グランドコンディション不良のため、外での講話ではなく、放送での講話となった。放送だと原稿を見ながら話せる利点はあるが、生徒の顔が見えないので、反応がよくわからないという欠点もある。せっかく原稿を暗記して臨んだのにちょっとがっかり。ちゃんと伝わったかどうかはわからないが、何人かの生徒に「よかったよ」とか「話を聞いて本を読もうと思った」とか言われたのでよしとしよう。この日は図書館の来場者も普段の倍に増え、貸し出し数も一挙に増加。ブラッドベリは『火星年代記』『華氏451度』2冊とも貸し出し中。あと、SF関係で人気があるのは『たったひとつの冴えたやり方』『アンドロ羊』『夏への扉』といったところ。おお、『ハイペリオン』もいつの間にか借りられている。よしよし。図書館SF増殖計画は順調に進んでいる。

 さて、今回は『ビブリア古書堂』について。古書店の女性美人店主が毎回古書に絡んだ事件を解決していくという人気シリーズである。一冊目で店主がアンナ・カヴァン『ジュリアとバズーカ』を読んでいる場面でぶっ飛び、以後かかさず読んでいる。夏目漱石、太宰治、司馬遼太郎といったメジャーな作家をきちんと押さえつつ、『生ける屍』『時計じかけのオレンジ』といったマイナーな海外作品まで取り上げているのが本書最大の特色である。古書に関する知識や本の内容が事件と密接に絡み合っていくのも面白いところ。事件そのものは、ありきたりの人情話で、もしも古書が関わっていなかったら凡作の域を出るものではない(それでもたとえば『謎解きはディナーの後で』などという小説以前作品に比べれば数十倍面白いが)。3冊目ではついにロバート・F・ヤング他『たんぽぽ娘』が登場。2冊目でル・グイン『ふたり物語』を店主が読んでいたのはこの伏線だったのか!(どちらもコバルト文庫) それにしても婚約者に贈る本に『たんぽぽ娘』とは……。いや、ロマンチックでいいとは思いますけどね。贈る本としてはどうなんだろう。ちょっと安っぽ過ぎやしないか。相手も本好きならいいのか。あと、作中では「たんぽぽ娘」にしか触れていないが、一応本書はアンソロジーなので、他の作品への言及があってもよかったのでは。「ゼナ・ヘンダースンの『なんでも箱』もいいお話ですけどね」とか栞子さんなら言いそうなものだが。というか、言ってほしかった(願望)。もうひとつ、『たんぽぽ娘』に古書価8,000円は高過ぎでは。せいぜい2,000円といったところじゃないかなあ。などといろいろなレベルで楽しめるのが本書のいいところである。
 店主と母親の関係はどうなるのか。店主とアルバイトの恋の行方も気になる。年末には出るという4冊目を楽しみに待ちたい。

堀田あけみにインタビューする2012-07-30 23:18

 というわけで、タイトル通り、堀田あけみさんにインタビューしてきました。事の次第は、自分が所属している愛知県国語教育研究会が来年の全国大会に向けて「愛知の文学」という冊子を作るのですが、自分がそのDVD版の作成担当となり、地元ゆかりの作家のインタビューを収録しようという流れがあったことと、今年3月の教え子の結婚式で、たまたま堀田あけみさんと出会い(Sさんに感謝ですね)、連絡先を教えてもらって、正式にインタビューの件を依頼したところ、了承の返事をいただけたということです。

 堀田さんと言えば、『1980アイコ十六歳』で文藝賞を受賞、その後も大学で心理学の勉強をしながら小説を書き続け、現在は椙山女学園大学国際コミュニケーション学部の准教授をされています。動物写真家の小原玲さんとご結婚されて、三人のお子さんを育てながら、大学の先生と作家の両方をこなしている、その多忙さの中でインタビューをお引き受けいただき、本当に感謝、感謝でした。

 堀田さんとは年も近く、大学も同じ。実は学生時代に何度か姿をお見かけしたこともあります。まさかそれからウン十年たってから、こうしてお話を伺うことになろうとは……。

 遅れてはまずいと約束の時間よりもかなり早く大学に着いてしまい、しばらくぶらぶらして過ごします。女子大なので、何だか、ものすごく居づらさを感じました。警備員も女性です。黙って立っていると不審人物なので、積極的に警備員の方に話しかけます。ようやく時間となり、研究室の扉をノックしました。さて、どんな方なのだろうと柄にもなく緊張していたのですが、堀田先生は、とても気さくで、いかにもお母さんという落ち着きのある、笑顔の素敵な女性でした。

 インタビューの内容は、高校時代の思い出、小説を書くことの面白さとつらさ、高校生へのメッセージの3点。いずれも堀田さんの豊富な人生経験に裏打ちされた興味深いお話をしていただけました。特に最後のメッセージでは、心理学と小説を書くことが、客観的に人間を理解しようとすることと、さまざまな視点から主観的に人間を理解しようとすることにつながっているというお話をしていただき、勝手ながら、そこに堀田さんの魅力の源泉があるのではないかという思いを抱きました。1時間の予定を少々超えてしまったことと、当方の不手際で一部同じ話を二度していただいたことが申し訳ありませんでしたが、少なくとも、こちらにとっては、充実した時間を過ごすことができました。本当にありがとうございました。

 インタビュー後の雑談で、実はSFもかなり読んでおられることがわかりました。ハインラインやシェクリー、フランク・ハーバート(『デューン』は全冊読まれているとのこと!)に至るまで、かなりの読書量です。驚きとともに、何となくそうだろうなと納得できたことも付け加えておきたいと思います。