今日マチ子『U』2013-05-26 21:30

 今日マチ子の作品は、雑誌「ダ・ヴィンチ」に載っていた百人一首を現代風に解釈して1ページの漫画に再構成したものしか読んだことがなかった。絵柄が柔らかく、繊細で、淡い水彩画のようなタッチで描かれており、印象に残った。何気ない日常を切り取って描くことが上手い漫画家なんだろうなと勝手に思っていたので、本屋で何気なく手にとり買ってきた本書を読んでびっくり。こんなかわいい絵柄で、こんな残酷な話を描くなんて。

 クローン技術で人間の舌を再生し、それをゼリーに差しこむことによってコピー人間を作る研究をしている教授とその助手。助手はそこそこの美人で、でも恋愛には奥手というよくある設定だ。助手をもとに作られたコピー人間が徐々にオリジナルを憎むようになり、ついに惨劇が起きる……。このクローン技術は全くリアリティがないので、SFとしては完全に破綻している。しかし、舌をゼリーに差しこんでコピーができるというイメージの深さは、一概にばかばかしいと切って捨てられないものがある。直接的にエロティックなシーンはほとんどないにもかかわらず、エロスを感じさせる作品になっているのは、この「舌」へのこだわりがあるからだろう。殺人あり、カンニバリズムありという結構ハードな展開なのだが、さらりと描いてあるので、それがかえって怖いという余情表現の効果もあるね。他の長編も読んでみたいという気にさせられた。

the band apart『街の14景』2013-05-30 01:46

 4月後半には出ていたのだが、昨日ようやく入手。the band apartは日本のインディーズ・バンド。音楽に詳しい若手の同僚に教えてもらい、気に入ってずっと聴いている。ギター、ヴォーカル&ギター、ベース、ドラムの男性4人組。高いテクニックに裏打ちされたきらびやかで軽やかなギター、ずんずんごりごりと力強く押しまくるベース(好きなベーシストはクリス・スクワイアだそうだ)、前のめりのビートで曲をぐいぐい引っ張るドラム、伸びやかなヴォーカル、すべてが素晴らしい。時にはプログレっぽく、時にはポップ、時にはハードで聴く者を飽きさせない。すべての曲を英語で歌っており、年配の洋楽ファンにもお薦め……だったのだが、さて、今回は実は初めて全曲日本語で歌われており、新たな展開を見せている。

 日本語のせいなのか、皆が作曲に参加したせいなのか、明らかに曲に広がりが出てきている。ポップになった曲もあれば、「師走」のように逆によりハードな展開を見せる曲もあり、バラエティに富んだアルバムとなった。従来のファンはえ、これもバンアパなの? という感じだろうが、これはこれでいいのではないだろうか。私は断固この方向性を支持したい。同じことばかりでは結局飽きられてしまうし、ファン層も広がらない。メンバーは不動であるし、曲の核は一貫しているので、バンアパらしさはちゃんと残っている。とにかくかっこいい音なので、知らない人はだまされたと思って一度聴いてみて。