関根康人『土星の衛星タイタンに生命体がいる!』 ― 2014-04-27 13:21

2010年6月に小惑星探査を終えて地球に帰還した探査機「はやぶさ」のニュースは記憶に新しいと思う。「はやぶさ」が小惑星イトカワに着陸したのは、帰還から5年遡った2005年5月のこと。実はその半年ほど前、2004年12月にNASAのカッシーニ探査機が土星系に到着していたのだが、このことを覚えている人はどのくらいいるだろうか。筆者にとって衝撃的だったのは、着陸機ホイヘンス(こちらは欧州宇宙機関ESAが開発した)が送ってきた土星の衛星タイタン地表の画像だった。何とそこには地球とよく似た川や海が映っていたのである。しかも、ホイヘンスが着陸した地点は、石がごろごろ転がる地球の河原に酷似していた(写真参照)。むろん、太陽から14億キロ以上離れ、最高気温がマイナス100度Cのタイタンに液体の水は存在しない。これはメタンの海や河川であり、メタンが地表を浸食した結果の地形である。タイタンに大気があることは知っていたのだが、まさかこんなにも地球とよく似た地形になっているとは思わなかった。当時ものすごく興奮し、日本で報道の扱いが小さいのに憤った記憶がある。
さて、本書(2013年12月発行、小学館新書)は、そのタイタンがなぜこんなに地球とよく似た地形になったかの謎を解き明かしてくれるだけでなく、太陽系内の他の惑星や衛星の成り立ちから始まって、惑星探査の歴史を辿り、それぞれの惑星や衛星における生命体存在の可能性を探った、良質の惑星科学解説書となっている。特に印象的なのは、2章で紹介される2種類の「ハビタブルゾーン」という概念だ。地球に存在するような生命が生きていく環境には、太陽光の日射エネルギーによって惑星表面に液体が存在する太陽加熱型ハビタブルゾーンと、潮汐による摩擦エネルギーで液体が内部に存在する潮汐加熱型ハビタブルゾーンとがある。分厚い氷の下に液体の水を持つ木星の衛星エウロパや、内部の海水を激しく噴出している土星の衛星エンセラダスは、典型的な「潮汐加熱型ハビタブルゾーン」であり、メタンの海を地表に持つタイタンは、地球以外に唯一存在する「太陽加熱型ハビタブルゾーン」だということになるわけだ。地球上の生命が、光合成でできた酸素と有機物を燃やして再び水と二酸化炭素に戻す過程で太陽光エネルギーを取り出しているように、タイタンの生命体は、アセチレンと水素を使ってメタンを作り出す過程で太陽光エネルギーを利用しているのではないか、と科学者達は推測している。カッシーニの観測結果もその説に沿ったものであるが、生命以外のプロセスで結果が生じている可能性もあるので、今後の探査を待つしかないというのが本書の結論である。従って、題名の「いる!」は「いる!?」が妥当であろう。
それにしても、本書で想像されている、大気中を飛び回るタイタンの生命体の姿は実に面白い。これはもはやSFの面白さとほとんど同じである。実際、本書の中では、エウロパの生命体を考察する際に、クラーク『2010年宇宙の旅』の一場面が挿入されたり、タイタンの地表を、ヴォネガット『タイタンの妖女』における描写と比較したり(これがまたぴったり一致しているのだ!)、自然にSFと科学解説が入り混じっていて、その自由闊達さも本書の魅力の一つとなっている。SFファンにはぜひ一読をお薦めしたいし、そうでない人にも十分楽しめる、初心者向けの良書である。
さて、本書(2013年12月発行、小学館新書)は、そのタイタンがなぜこんなに地球とよく似た地形になったかの謎を解き明かしてくれるだけでなく、太陽系内の他の惑星や衛星の成り立ちから始まって、惑星探査の歴史を辿り、それぞれの惑星や衛星における生命体存在の可能性を探った、良質の惑星科学解説書となっている。特に印象的なのは、2章で紹介される2種類の「ハビタブルゾーン」という概念だ。地球に存在するような生命が生きていく環境には、太陽光の日射エネルギーによって惑星表面に液体が存在する太陽加熱型ハビタブルゾーンと、潮汐による摩擦エネルギーで液体が内部に存在する潮汐加熱型ハビタブルゾーンとがある。分厚い氷の下に液体の水を持つ木星の衛星エウロパや、内部の海水を激しく噴出している土星の衛星エンセラダスは、典型的な「潮汐加熱型ハビタブルゾーン」であり、メタンの海を地表に持つタイタンは、地球以外に唯一存在する「太陽加熱型ハビタブルゾーン」だということになるわけだ。地球上の生命が、光合成でできた酸素と有機物を燃やして再び水と二酸化炭素に戻す過程で太陽光エネルギーを取り出しているように、タイタンの生命体は、アセチレンと水素を使ってメタンを作り出す過程で太陽光エネルギーを利用しているのではないか、と科学者達は推測している。カッシーニの観測結果もその説に沿ったものであるが、生命以外のプロセスで結果が生じている可能性もあるので、今後の探査を待つしかないというのが本書の結論である。従って、題名の「いる!」は「いる!?」が妥当であろう。
それにしても、本書で想像されている、大気中を飛び回るタイタンの生命体の姿は実に面白い。これはもはやSFの面白さとほとんど同じである。実際、本書の中では、エウロパの生命体を考察する際に、クラーク『2010年宇宙の旅』の一場面が挿入されたり、タイタンの地表を、ヴォネガット『タイタンの妖女』における描写と比較したり(これがまたぴったり一致しているのだ!)、自然にSFと科学解説が入り混じっていて、その自由闊達さも本書の魅力の一つとなっている。SFファンにはぜひ一読をお薦めしたいし、そうでない人にも十分楽しめる、初心者向けの良書である。
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