ブランドン・クローネンバーグ『アンチヴァイラル』2013-07-01 17:44

 映画の日だったので何か見ようとネットで調べていたら、シネマテークで、デイヴィッド・クローネンバーグ(『ヴィデオドローム』『ザ・フライ』)の息子ブランドン・クローネンバーグが撮った映画がやっていると知った。父親の映画は好きで結構観ているつもりなので、息子はどんなもんじゃいと好奇心半分で早速観てきた次第。

 映画の舞台は近未来、美しいスーパーモデルに憧れる人々を相手に、そのモデルが感染したウィルスを注射する商売をしている会社で働く男が主人公である。さすがクローネンバーグの息子だけあって、相当ヘンな設定だ。最初は何を売っているのかよくわからないが、観ているうちに何となくわかってくる。が、セレブのウィルスが欲しいという感覚自体に感情移入できないので、最初から最後まで「気味が悪い」という印象は変わらない。でも、考えてみれば、この「気味の悪さ」こそが初期クローネンバーグの持ち味ではなかったのか。『ヴィデオドローム』然り、『裸のランチ』然り。近作(『イースタン・プロミス』あたり)では全くその「気味の悪さ」は薄れてしまって、いい意味で円熟してきたクローネンバーグ(父)だったが、もしも初期クローネンバーグに愛着を持っている方がいたら、本作は必見である。そうでない場合は、まあ、ヒマがあったら観てください、という程度かな。

 決してストーリーでぐいぐい引っ張る作品ではないので、映像美とグロテスクさを楽しむつもりで観た方がいい。冒頭、キューブリックもかくやと思わせるクリニックの内装の白一色の機能的な美しさから始まって、ウィルスの特性を顔で表していたり、ウィルス変異マシーン(のようなもの)が妙にレトロな造形だったりと、見所満載である。主人公が致死性ウィルスに侵されて見る悪夢が『ヴィデオドローム』のような、機械と肉体が入り混じったイメージだったのには、ここまでやるかという気もしたけどね。あとは、ヒロインのサラ・ガドンに、デボラ・ハリーほどの存在感がないのが残念。欠点は多いけれど、新人の第一作にしては良くやっている方ではないか。この先どのような方向に行くのか楽しみである。