宮内悠介「盤上の夜」2013-05-22 16:05

 ずっと気になってはいたのだが、今まで読まずに来てしまった宮内悠介の「盤上の夜」を読んでみた。創元SF短編受賞作は一応すべて読んでいる。松崎有理「あがり」はリーダビリティの高さと奇想がうまく融合されていて素直に楽しめたし、酉島伝法「皆勤の徒」の作風は好みではないけれど、その異様な迫力には圧倒された。理山貞二「すべての夢|果てる地で」は先人へのオマージュに好感が持てる力作であった。どれも日本SFの先行きに期待が持てる佳作であることは間違いない。

 『世界の果ての庭』が面白かったので、何の関係もないが(創元から出ている新人というだけだ)、勢いで『原色の想像力』を手に取り、「盤上の夜」を一気に読む。これは傑作。SF短編賞の第1回を選ぶとなると、科学性の希薄さ故にためらうかもしれないが、ジャンルを抜きにすれば、紛れもない傑作である。直木賞候補になったのも頷ける。四肢を失った少女が囲碁を通じて観念の世界を彷徨う。サピア=ウォーフ仮説も登場するので、ミエヴィル『言語都市』との比較も可能である。ミエヴィルが異星人を用いて言語と思考の関係を考察したのに対して、宮内悠介は四肢のない少女を用いて同じ問題を考察したのだ、と。本作はれっきとした言語SFであり、しかも優れたサイエンス・フィクションであると私は思う。短編集全体を読まずに一作だけでレビューするのもどうかとは思ったが、とりあえず記しておきたいと思った次第。

 既に本作の面白さをご存知の方には何を今さらの話であるが、未読の方はぜひ読んでほしい。これで受賞できないのだから、創元SF短編賞恐るべし、である。それだけ若く豊かな才能がここから出てきているということなのだろう。徳間の新人賞がなくなってどうなるかと思われたが、これなら安心(むしろ、徳間からはいったい誰が残っているのか? これについては、自分が一次選考をしていた経緯も含めて、また別の機会に触れたい)。第4回の受賞作も最近発表されたので、今から読むのが楽しみである。