高野和明『ジェノサイド』2012-02-13 21:02

 『SFが読みたい! 2012年版』でも6位に入っており、アンビの新年会でも話題になっていたので読んでみた。

 死んだ父親が研究していた新薬をめぐる陰謀に巻き込まれた大学院生の物語と、アフリカ奥地でウィルスに感染した部族を撲滅する任務を帯びた傭兵の物語とが交錯し、人類の未来に関するヴィジョンも描かれるという壮大なストーリイとなっている。薬物に関する理論や軍事兵器などは入念にリサーチされており、特に、新薬開発の過程などは、なるほどこうやって薬というのは作られていくのかと興味深く読むことができた。後はハイズマン博士が書いた架空論文「人類の絶滅要因の研究と政策への提言(通称ハイズマン・レポート)」がよく作り込まれていて面白い。こうした設定をきちんと積み重ねているので、物語に圧倒的なリアリティが生じるわけである。
 タイトルの「ジェノサイド」は、直接的には、傭兵の使命となったアフリカ奥地のピグミー族虐殺を指すと思われるが、それに人類が繰り返してきた集団虐殺(アウシュヴィッツへの言及あり)を重ね合わせ、さらにもうひとひねりSF的な展開を加えた三重の意味があり、象徴的なタイトルにはなっている。エンターテイメントとしての完成度は高い。しかし、SFファンとしての立場から敢えて言うならば、やはりこの物語の結末から始まる物語をこそ読みたいと思う。
 アフリカ・パートの過激な描写と日本パートのぬるま湯的な描写の対比は意図されたものだとは思うが、典型的な巻き込まれ型キャラである日本の大学院生の描き方が平板で魅力に乏しいのもどうかと思う。こうでないと今の若者が共感できる作品にならないのかな。まあでも、アフリカ・パートの迫力に圧倒されたのは事実なので、作者の筆力があるのは確か。後はもう少し想像力の翼を広げてほしい、哲学的な深みもほしいというのは、ないものねだりなのだろうか。